自閉的傾向者への行動分析学的アプローチ

大口 俊樹
ふれあい多居夢



T.はじめに

自閉傾向者は、コミュニケーションの獲得に失敗している例が多く、非適応行動として表出される。この行動は外部
への働きかけの一つであると考えた(非言語コミュニケーション行動)。
 短期間の実習の中で、行動分析学を用い、行動のレパートリーを増やし、QOLの向上につなげていくことが出来る
か研究した。

U.対 象

1 対象者のプロフィール:S・T24歳。遺伝性の精神発達遅滞。先天性奇形、結節性硬化症(両下肢に制限)、
   脳性まひ、癲癇を患う。発達年齢は全ての面で、一歳四ヶ月以下の年齢。言語の獲得に至らない。コミュニケ
   ーション手段の全てが「大声だし」によって行われる。癇癪行動、他傷行動を起しやすい。
 2 問題点:S・Tのコミュニケーション方法は、「大声だし」のみであり、何を訴えたいのか、理解するのに困難で
   ある。「大声だし」に対する職員の対応がS・Tに反すると、非適応行動が悪化する。
 3 目 的:弁別された要求行動を行えるように支援する。人との関わりの中で自発行動の選択肢が増えれば、自
   立度が向上し、生活の質(QOL)の向上になっていくと仮定した。

V.方 法

   期 間: 2001年 6月6日〜7月3日

@ 改訂版―MAS: 改訂版MASでは、20の質問項目がある。重複した質問項目を避ける為である。3つの
  場面設定をし、ターゲット行動を選定する。

A FCT: MASから感覚、逃避、注目、要求の傾向を明確化し、適切なコミュニケーションを条件付けしていく。

条件付けは、三項随伴性パラダイムにあてはめ、スモールステップの原理にあてはめ、段階的なスケジュール
を作成する。

W.結 果

@ 改訂版―MAS
  

 3つの大声だし行動の中でFCTにつながりやすかった場面3「イスに座っている時の大声だし」のアセスメント結果。
  Tangibleが高く要求行動であることが明らかになった。

A FCT
  

 非言語コミュニケーション行動として「実習生を→タッチすると→車イスが動く」というジェスチャーを成立させるため
 身体的ガイダンス、プロンプト法を段階的に組み合わせ、グラフのような成果が出た。7月1日にはプロンプト提示
 無しで、自発行動がみられた。

X.おわりに
 約一ヶ月という短期間でS.Tの非適応行動を適応行動へつなげていくことができた。MASで行動の目的が明確
になりFCTを組み合わせ「実習生の手をタッチする」という行動のレパートリーを増やすことができた。プロンプトの
提示は自発行動を促す手がかりとして自閉的傾向が見られても大変有効であった。行動特性の事前アセスメント、
そしてどのような行動分析学的アプローチをすれば良いのかが行動変容を短期間で行う鍵であった。


この論文は、松山学園松山福祉専門学校で発表した卒業論文であることを明記しておく。


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